〈成人コミック〉マークが付いているマンガ単行本『蜜室』(ビューテイ・ヘア著)が、わいせつ図画頒布罪にあたるとして発行元である松文館の社長が2002年10月22日に起訴された。以来、約1年間無罪を主張して12回の公判を戦い抜いた被告・弁護団と検察との息詰まるような法廷劇を克明に描いた迫真のノンフィクション。
弁護側、検察側両方の証人として摘発を担当した警察官が出廷した第九回公判であきらかになったことは、警察があまり深く考えずに摘発に踏み切ったということだ。
証言によれば、彼はチャタレイ裁判のことも浮世絵の春画がふつうに市販されていることも知らなかったという。わいせつ表現の摘発などもともと真剣に考えていなかった当局の背中を押したのは、警察OBである平沢勝栄衆議院議員の添え状付きで転送されてきた一通の投書だった。高校生の息子の引き出しのなかから見つけた「エロマンガ」の内容に狼狽驚倒激怒した父親が平沢議員あてに送ってきた手紙で、断固とした取締りを求めるものだった。国会議員の口利きのような行為からすべてがはじまったというのが真相である。
当然、公判を通じて、「わいせつ」とは何か。そもそも取締るべき「わいせつ」は存在するのか、ということが争われたわけだが、弁護側証人として登場した5人の識者の意見は、実に興味深く、傾聴に値するものだ。以下、要約。
宮台真司氏(都立大学助教授、社会学)の証言
青少年に及ぼす「悪影響」を理由に性的メディアを規制することには科学的根拠がない。
園田寿氏(甲南大学教授、刑法学)の証言
『蜜室』は青少年条例で規制されるべきで、刑法175条の「わいせつ図書」には当たらない。
斎藤環氏(精神科医)の証言
マンガによって喚起された欲望が、実際の女性に向かうことはほとんどあり得ない。
奥平康弘氏(憲法学)の証言
刑法175条は憲法違反。公権力が「表現の自由」を規制することは絶対に許されない。
藤本由香里氏(評論家・編集者)の証言
作品としての『蜜室』を精密に分析すれば、性器描写には必然性がある。
|